「2011台北国際デザイン大会」と「2011台北国際デザイン博覧会」の委託を受けた私は、「趣遊碗(トリップビューボール)」チームを率いて記念のお碗・「交鋒」を創作した。台北市の松山タバコ工場跡地を中心とし、デザイナーの観点から「松山文創園区・魚眼パノラマ鳥瞰図」を完成させたのだが、私が描くことができたのは、イベントが開催された1ヶ月の間に、敷地の半分で起こったことに過ぎない。残り半分の土地の物語は、20年前から説き起こす必要がある。
1991年、台湾プロ野球の年度チャンピオン戦で、あいにくの雨にたたられた観客から「屋根つきのドーム球場がほしい」という声が高まり、松山タバコ工場跡地が予定地に選ばれた。この「巨蛋(ビッグエッグ)」の予定地は20年もの孵化の時間を経過し、周辺は一等地のオフィス街に変身したにもかかわらず、いまだ放置されたまま。いつのまにやら原生植物が繁茂し、鳥が餌を取りに訪れるようになり、さながら「台北市内東エリアで最後の生態の孤島」の様相を呈している。
そして、ここ数年、付近住民に芽生えはじめた緑の意識が、この土地に向けられている。「ショッピングモールはいらないから、森林公園がほしい」、「ビジネスエリアよりも、総合スポーツ施設を」、などといった声が起こりはじめたのである。地元住民代表、市議会議員、環境保護団体、学者も、「松山タバコ工場跡地森林公園」の造成を訴え、経済的な効果と環境保護意識が攻防を繰り返して決着がつかないまま、いたずらに時間が経過するなかで、樹木は一本一本、消えていった。
2011年10月、長年の懸案だった「台北ドーム・巨蛋」が着工され、松山タバコ工場跡地は2つのエリアに区分された。囲いの外では、デザイナーたちが一堂に会して国際会議が開かれているが、囲いの中で地元住民の夢はまだ実現していない。地元住民はどんな最終説明を受けることになるのだろう。地元住民の一人としての私が、デザイナーとしての私に発表を求めたこの作品を、私は「ガチャポン」と名づけた。
私たちは毎年税金を納め、投票所に通い、政治という“社会装置”が幸せを運んできてくれることを期待している。しかし、自分たちの求める幸せが、「ガチャポン自動販売機」の中に入っていると誰が言えるのか?20年もの異常に長い孵化期間を経た「巨大な卵(ビッグエッグ)」は、ほんとうに私たちの期待に応えてくれるのだろうか?
趣遊碗總兼 於2011年秋